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東京高等裁判所 昭和57年(行ス)27号 決定 1983年9月09日

抗告人 石川光春 ほか七五名

相手方 運輸大臣

代理人 小田泰機 東松文雄 松岡敬八郎

主文

本件抗告を却下する。

理由

本件申立ての趣旨は、「原決定を取り消す。相手方は、別紙文書目録記載1、2の各文書を浦和地方裁判所に提出せよ。との決定を求める。」というのであり、その理由は、別紙「即時抗告理由」(抗告人らの即時抗告理由書中関係部分の写し)記載のとおりである。

よつて判断するに、

一  まず、別紙文書目録1記載の各文書(認可書及び同添付書類)についてみるに、当審において相手方が提出した陳述書(当裁判所の審尋に対する書面による陳述)によると、右各文書のうち、昭和四六年一〇月一四日付けをもつて日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)に対して認可した東北新幹線東京・盛岡間工事実施計画(その一)及び昭和四八年二月二七日付けをもつて国鉄に対して認可した同工事実施計画(その二)並びに昭和五五年一月二五日付けをもつて国鉄に対して認可した同工事実施計画の変更(その四)に係る各認可書は、国鉄総裁に対し、昭和四六年一〇月一四日付けをもつて日本鉄道建設公団(以下「鉄建公団」という。)に対して認可した上越新幹線大宮・新潟間工事実施計画(その一)及び昭和四八年二月二七日付けをもつて鉄建公団に対して認可した同工事実施計画(その二)に係る各認可書は、鉄建公団総裁に対し、それぞれ交付されており、相手方は、右各認可書の原本又はその写しを所持せず、また、右各認可書については添付書類の存在しないことが明らかである。

してみると、右各認可書が民事訴訟法三一二条三号後段に定める文書に該当するか否かについて検討するまでもなく、相手方が右各認可書(原本又は写し)及び同添付書類を所持するものとして、その提出を命ずることを求める抗告人らの申立ては理由がないものといわなければならない。

二  次に、別紙文書目録2記載の各文書(各認可申請書並びに同添付書類及び参考資料)について検討する。

1  抗告人らが本件の本案訴訟において取消しを求めている本件認可が、いわば上級行政機関の下級行政機関に対する監督手段としての承認の性質を有するものであり、行政機関相互間の行為と同視すべきもので、行政組織の外部に対する効力を有するものではなく、これによつて直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものではないことは、原決定の理由説示のとおりであつて(最高裁昭和四九年(行ツ)第八号同五三年一二月八日第二小法廷判決・民集三二巻九号一六一七頁参照)、抗告人らと相手方との間には、本件認可の取消しを求めるという関係においては、何ら法律関係は存在しないものというべきである。

2  民事訴訟法三一二条三号後段にいう「法律関係ニ付作成セラレタル」文書の範囲につき、これを法律関係それ自体を記載した文書に限定せず、その法律関係に関連する事項を記載した文書を含む趣旨に解するとしても、挙証者と文書の所持者との間に法律関係が存在せず、単に事実上あるいは間接的に挙証者の権利、利益に影響を及ぼす事項が記載されているにすぎない文書のごときは、前述の法律関係に関連する事項を記載した文書にも該当せず、このような文書に至るまで法律関係につき作成された文書に含まれるものと解することはできない。

ところで、抗告人らが提出命令を求める各文書は、国鉄又は鉄建公団が本件認可(ただし、本案訴訟記録によれば、抗告人ら主張の昭和五五年一月二五日付けの鉄建公団に対する認可は存在しないことがうかがわれる。)及びその前提となる各工事実施計画の認可を求めるに当たり、相手方の審査に供するため提出した認可申請書及び同添付書類その他の参考資料であつて、これらはいずれも相手方と国鉄又は鉄建公団との間に存在し、又は成立する法律関係(行政組織の内部における指示、監督の関係)に関するものにほかならず、挙証者である抗告人らと相手方との間においては、何らかの法律関係が前提として存在するものでないことはいうまでもなく、相手方の認可によつて何らかの法律関係が形成されるものではないのであつて、両者の間にはおよそ法律関係が存在しないものと解される以上、右各文書が抗告人らと相手方との間の法律関係につき作成された文書に当たるものとする余地はない。

3  抗告人らは、「本件認可は、国鉄又は鉄建公団に対し、新幹線鉄道建設工事を進めるための具体的権限を付与する効果を伴う相手方の意思表示であつて、外形上少なくとも行政行為としての認可に相当するものと認められる以上、抗告人らと相手方との間には、特定の具体的な法律関係が存在する」旨主張する。しかしながら、本件認可の実際上の効果がいかなるものであるにせよ、その法律上の性質は前示のとおりであり、右認可の前提として存在し、又はこれによつて生ずる法律関係は、あくまでも相手方と国鉄又は鉄建公団との間における行政機関相互間のそれと同一視すべき内部関係にとどまるものであつて、これにより直接抗告人らの権利義務が何らかの影響を受けるものではないのであるから、本件認可の外形あるいはそのもたらす実際上の効果から、相手方と抗告人らとの間に法律関係が存在するものと推断することはできない。

また、抗告人らは、「抗告人らに、本件認可の実体的、手続的違法を主張してその取消しを求める権利、利益が認められる以上は、抗告人らと相手方との間には、抗告人らにおいて本件認可の取消しを求め得る権利の存否ないし本件認可の取消原因の存否に関する実体法上の法律関係がある」とも主張する。

しかしながら、抗告人らが本案の訴訟において、本件認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有し、かつ、その取消しを求める実体上の権利を有することを当然の前提とし、しかも抽象的なその権利、利益自体の存在をもつて個別的かつ具体的な法律関係が存在することの根拠とすることはできないものといわなければならない。

また、所論が、本件認可が行政処分性を有するか否か、抗告人らがその取消しを求める法律上の利益を有するか否か、更にはその取消原因が存在するか否かに関して、現に争訟関係が存在する場合には、その争訟関係自体が法律関係に該当することになるとの趣旨であるとするならば、これまた到底組し難い議論といわざるを得ない。争訴関係の存在自体が当事者間における個別的かつ具体的な法律関係を実体的に形成するものではあり得ないし、一方当事者の他方当事者に対する報告請求権とこれに対する解明義務というような関係をそこに見いだすことも困難であるからである。抗告人らは、争訟関係が存在する場合には、その過程において作成され、又はこれに関連して作成された文書は、当然民事訴訟法三一二条三号後段の文書に該当するものと解すべきであると論ずるもののようであるが、かかる解釈は、同条一号、 二号及び 三号前段の各規定との調和を破るものであることはいうまでもないところであり、文書の所持者に対する一般的提出義務を認めず、文書の提出を拒み得ない場合を限定的に定めた同条の意義を事実上失わせるに等しい不当な結果を招くこととなるのであつて、到底採り得ない議論というほかはない。

三  以上のとおりであるから、本件申立ては、別紙文書目録1の各文書については申立ての要件を欠くものとして、同2の各文書については民事訴訟法三一二条三号後段の文書に該当しないものとして、いずれも却下すべきであるところ、原決定はこれと結論を同じくするのでこれを維持し、本件抗告の申立ては失当として棄却することとする。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 貞家克己 川上正俊 渡邉等)

別紙 <略>

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